Development Stories

家具冷蔵庫の開発ストーリー家具冷蔵庫の開発ストーリー

ハイアールアジアR&D株式会社|プロダクトデザイナー
渡邊悠太

デザイナーが一人暮らしの実体験を生かしてデザインした、
部屋で一緒に暮らすインテリア発想の冷凍
冷蔵庫。

このデザイン開発は、私の実体験からはじまりました。狭い1Kで一人暮らしをしていた時、居住スペースの洋室に冷蔵庫を置いていました。その時使用していた2ドア冷蔵庫は、奥行きが大きく、サイズもぽってりと圧迫感がありました。さらに、音がうるさく、その部屋での日常の暮らしが嫌で嫌で仕方がありませんでした。毎日使うモノだからこそ冷蔵庫への不満が日増しに高まっていきました。
その後、運命というのか、一人暮らし向けの小型冷蔵庫の新しい企画を検討する機会がめぐってきました。「何がなんでもあの時の不満を解決するぞ!」と意気込んでのぞみ、奥行スリム、コンパクトボディ、フレンチドア、家具調デザインの冷蔵庫を提案しましたが、​その時は採用には至らなかったのです。​

譲れなかった、家具の奥行き45cm。
最初の課題は、全く新しいプラットフォームづくりでした。

私はその後も、検討を諦めることなく進めました。​オンラインでユーザー調査を実施すると、私と同じように思っているユーザーが多くニーズと市場性は見えてきたのですが、設計的なハードルも多く、商品化は困難な状況でした。それでもデザインの試行錯誤は続けていき、​容量や大きさ、最適なドア割…。実際に家具を購入して研究を重ねていきました。そんな中、毎年実施しているアイデア大会のテーマに小型冷蔵庫が選定され、改めて関係者にプレゼンテーション。正式なプロジェクトとして認定されました。そこから、製品化に向けての本格的な検討が始まりました。

設計図

家具をつくるという発想で冷蔵庫をデザインし製品化する。そのためには、解決しなければならないいくつもの難問があります。大変だったのは、このコンパクトな商品を生産してくれる工場を探すことでした。一般的に海外で作られる冷蔵庫は海外の住宅にあったサイズ感で作られ、コンパクトなサイズ感は求められていません。それに対して日本では限られたスペースに置けるコンパクトで大容量な冷蔵庫を求められるため、冷蔵庫を作るノウハウや技術が大きく異なります。さらに今回の商品のような薄型で冷蔵と冷凍の両方を併せ持つ冷蔵庫となると工場側にとってもハードルが高く、生産設備や生産ラインの関係から賛同してくれる工場を見つけるのには非常に苦労しました。

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家具冷蔵庫と言っても、本質は冷蔵庫。
このサイズ感を実現するのは、
ほぼゼロから冷蔵庫を開発する新しい挑戦でした。​

当たり前のことなのですが、LOOCは外見は家具でも中身は冷蔵庫です。しかもフレンチドアの冷蔵庫は海外では一般的ですが、日本ではあまり見かけません。AQUAにも480Lのフレンチドア冷蔵庫はありますが、幅84㎝・高さ178㎝・奥行き67㎝の超大型と呼ばれるサイズです。
対して今回の商品は圧倒的なコンパクトさにもかかわらず、冷蔵と冷凍の機能は大型商品と同じです。基本的な機械や構造は変わりませんから、いかにこの小さな商品の中にそれを押し込むか、とても難しい開発となるわけです。​
また、使い勝手を損なうわけにはいきませんので、開けた際十分ものを入れられるように、庫内を可能な限り広く使えるようにしました。外観はコンパクトに、でも中身は広々、まったく相反することを両立することは苦しさもありながら、振り返れば面白い挑戦でした。

実物モデルによるユーザー調査を繰り返し、
ARを駆使して、デザインを練り込んでいきました。

家具としてはキャビネットの形状をイメージしていました。初期の頃は引き出し型の冷凍室を想定した3ドアタイプも有力候補として検討しました。でも実際にモデルをつくってみると、アイスや氷を入れるにはあまりにも奥行きが狭く不採用にしました。またユーザー調査は、オンラインを含めて4回ほど実施しています。そのうち3回は実際のモデルを使い、使い勝手や中に入れたいものなど何時間もかけてユーザーと対話するプロセスをとりました。計200人ぐらいの方にしっかりお話しを聞くという調査方法です。質問は見た目、サイズ感、機能、色など多岐に渡ります。その中でちょっと意外だったのが、もともとモデルは横幅70cmを想定していたのですが、「ちょっと広い、置きにくいのでは?」という声があったことです。発泡スチロールで実物大の庫内を作成し、使い勝手や想定した収納物に影響が無いか何度も検証・確認し、よりコンパクトな60cmを採用しました。モデルよりさらにコンパクトなボディを選んだことで、冷蔵庫としての機構を構築するうえの課題も増えることになりました。


また今回は、ARが大活躍しました。スマホ上でイメージや大きさ、部屋やインテリアとの相性を確認でき、データを変えればレイアウトやサイズ感も変更できます。冷蔵庫の開発上、実物大のサンプルを作るのにお金も時間もかかります。より効率的な開発を進める上で、ARは大きな力になったのは間違いありません。

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365日、目にするものだから、
どんな空間にも溶け込み、インテリアと
調和すること。
質感にもこだわりました。

この冷蔵庫の開発の原点は、過去の自分が欲しいと思えるものを作ることです。家具と馴染むことや生活動線、音など、当時不満に感じていた要件をまずクリアしなければなりません。狭小スペースに置くとなるといろいろなものが雑多になってしまいます。そう考えてモノ自体があまりノイズを発しないことや空間の中で溶け込むデザインを目指していました。ドアは製品化された木目だけでなく、ファブリック調や単色・金属カラーなど、CMF(色・素材・加工)も長い間検討を重ねました。ユーザー調査では木目が一番人気でした。主に想定した置き場所は、キッチンではなくリビングです。人目につくところなので、白黒という表情のないものよりは表情のあるもの。周囲の家具に溶け込むものにしようと考えていきました。

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驚かれることが多いのが木目ドアの質感です。しっとりした感じがあって、触ると凹凸感があります。できるだけ自然な手触りを再現したかったのですが、冷蔵庫のドアはツルッとしたものがほとんどです。冷蔵庫のドアとしての強度などの品質を考えると、どうしてもその選択になってしまいます。品質を保ちながら、凹凸感や手触りにこだわりたい、そこを超えないと家具冷蔵庫としての存在意義や魅力が出ないのではないかと思いつめていました。素材を探し、品質部門のスタッフと議論を重ね、最終の素材に辿り着きました。鉄板素材の冷蔵庫なのに、​見た目は木目、手触りの良さも実現させることができました。​

一般的な冷蔵庫の品質基準をクリアする。
LOOC品質はそれだけでは足りません。

冷蔵庫は10年ぐらい使う"家電"です。その意味では、安価な素材で製作された​キャビネットの品質ではまったく足りません。さきほどのドアでも厳しい社内品質基準があります。溶剤をかけて溶けない、折り曲げて剥がれない、熱をあてて大丈夫か、などです。生活をしていくうえで洗剤やいろいろなものが付着した時に変色や劣化がないという品質の検査です。
また静音性についてもこだわりました。LOOCは、従来の冷蔵庫と異なり、キッチン以外の空間、例えばリビングルームやベッドルームなど人に近い距離での使用が多く想定されるだけあって、極力静かな仕様になるように開発を進めました。

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空間を広く見せる付け替え脚。
耐久性や商品の落下実験もクリアしています。

脚はハイタイプとロータイプの2タイプとしました。ハイタイプは、ほとんどのロボット掃除機が入る高さに設定しています。ここも絶対に実現したいポイントでした。脚を付け替えて高さを変えられる家具というのは一般的ですが、冷蔵庫ではありません。AQUAは冷蔵庫メーカーとして培った厳しい品質基準がありますが、脚の付け替えは初めての挑戦であり、そのため新たに製品基準を考える必要がありました。脚の付け替えができること、付け替え時に本体に影響がないこと、開け閉めでドアの不具合や転倒の危険性がないこと、などさまざまな視点で新たな品質基準を作成し、クリアし、製品としてようやく完成しました。

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ライフスタイルを広げる
可能性に満ちた冷蔵庫へ。

狭い部屋で生活した経験から始まったLOOCの開発ですが、完成してみると、暮らしの問題を解決したというだけにとどまりません。いまの時代のライフスタイルを広げる可能性を秘めた冷蔵庫に進化させることができたと思っています。一台の冷蔵庫から、どんな新しい暮らしが始まるのか楽しみにしています。

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