【前編】アクア×サイエンス社が挑む“業務用ウルトラファインバブル”の新時代

コインランドリー関連情報

― 開発のきっかけと試行錯誤の舞台裏 ―

自己紹介・企業紹介 ― “泡”と“洗濯”の専門家たち

ウルトラファインバブル(以下UFB)の共同開発を手掛けたのは、家庭用シャワーヘッド「ミラブル」で知られる株式会社サイエンスと、業務用洗濯機を手がけるアクア株式会社です。
異なる分野で活躍してきた両社が出会い、新しい“水の技術”を生み出しました。

まず、開発のキーパーソンであるサイエンス社 商品本部 開発部・天久氏。サイエンス社の商品本部 開発部の天久氏は、学生時代からファインバブルの研究を続けてきました。高知高専で学び、研究歴はすでに8年を超えます。

「学生時代からファインバブルの生成メカニズムに興味を持っていました。現在もその知識を活かし、ミラブルなどの開発に携わっています。」(天久氏)


ファインバブルは、目に見えないほど微細な泡で、洗浄や殺菌など多様な分野で注目されている技術です。
天久氏は、シャワー技術から始まったこの研究を業務用の領域へ広げることに挑戦しています。


一方の藤原氏は、アクア株式会社 企画開発グループで業務用洗濯機の機構設計を担当してきたベテランです。
入社以来34年間、コインランドリー向けの機器開発に携わり続けてきました。

「私は入社以来、業務用洗濯機の構造設計を担当しています。ずっとコインランドリーの機械を見てきました。今回のUFB導入は、これまでの経験を活かせる新しい挑戦でした。」(藤原氏)

二人の専門分野はまったく異なります。
一方は“泡の専門家”、もう一方は“洗濯機の匠”。
しかし、両者に共通していたのは、「水をより良く使い、人の暮らしを豊かにする」という想いでした。

この想いが重なり、業務用洗濯機という大きな舞台で、目に見えない泡の力を活かす開発が動き始めたのです。

開発の経緯 ― 競争激化の中で模索された「新しい価値」

アクアがUFBに着目した背景には、業務用洗濯機市場の変化がありました。
コインランドリー業界では近年、他社が次々と新しい付加価値を打ち出しており、差別化が急務となっていたのです。

「他社では “ナノイー”や“プラズマクラスター”などを搭載した機器が登場し、清潔さや安心感といった価値が打ち出されていました。一方で、業務用洗濯機は“しっかり洗える”という基本性能を中心に訴求してきたため、そこに新しい提案が必要だと感じていました。」(藤原氏)

アクアはもともとオゾン洗浄という除菌・脱臭技術を持っていました。業界でも広く活用されている有効な方式ですが、オゾンの特性上、その仕組みを直感的に理解してもらうことが難しい場面もありました。

「技術としての効果は十分に実証されています。ただ、お客様に“どう働いているか”をより分かりやすく伝えるために、別のアプローチとなる技術も検討したいと考えていました。 そうした中で、UFBという新しい可能性に出会ったんです。」(藤原氏)


そんなときに出会ったのが、サイエンス社のミラブルでした。
家庭用シャワーヘッドとして人気を集めていたミラブルは、目に見えない微細な泡が汚れを落とすという新しい発想で注目されていました。
その仕組みを業務用洗濯機にも応用できるのではないかと考えたのが、プロジェクトの始まりです。

「ミラブルの“泡できれいにする”という考え方に強く共感しました。アクアとしても、“きれいに洗う”という本質的な価値を、別の形でお客様に届けられるのではないかと思ったんです。」(藤原氏)

アクアの開発チームがサイエンス社に声をかけたことで、協業の話が動き出しました。
サイエンス社にとっても、家庭用とはまったく異なる業務用という環境は新たな挑戦でした。

「業務用は流量も圧力も桁違い。単純に家庭用の構造を拡大すればいいというものではありません。私たちにとっても、これまでにない難しいテーマでした。」(天久氏)


こうして両社は、それぞれの得意分野を活かしながら、“業務用のUFB洗濯機”という未知の領域に挑戦を始めました。
それは単なる機能追加ではなく、“洗浄の常識を変える新しい価値づくり”への第一歩だったのです。

開発初期の課題と再始動 ― 「人間洗濯機」がつないだ縁

アクアとサイエンス社の共同開発は、当初から順調に進んだわけではありませんでした。
家庭用で培われたUFB技術をそのまま業務用に応用するのは想像以上に難しく、最初の試作機では思うような結果が得られなかったのです。

「家庭用の発生装置を使って試してみたのですが、業務用の水量にはまったく合わず、泡が発生しなかったのです。空気を吸い込まないし、出てくるのはただの水。正直、“これは無理かもしれない”と思いました。」(天久氏)

業務用洗濯機は、1回の運転で大量の洗濯物を処理する構造です。
そのため、家庭用レベルの流量や圧力設定では、空気を巻き込むことができず、泡を安定して発生させることができませんでした。

「家庭用の延長ではダメだということがすぐに分かりました。ただ、このまま諦めてしまうのはもったいないという気持ちが強かったですね。」(藤原氏)


そんな中、プロジェクトが再び動き出すきっかけとなったのが、両社をつなぐ“ある共通点”でした。
アクアの前身・三洋電機は、1970年の大阪万博で話題を集めた「人間洗濯機」を開発・展示していました。
一方、サイエンス社も2025年の大阪・関西万博で「ミライ人間洗濯機」を出展予定。
偶然にも、半世紀を超えて両社が同じテーマに関わっていたのです。

「人間洗濯機つながりという話になったときに、“これはご縁ですね”と盛り上がったんです。“せっかくだから一緒に挑戦してみよう”という空気が生まれました。 」(藤原氏)

“人を清潔に、快適にする”という根底の想いが一致していたことも、再挑戦への大きな後押しとなりました。
両社のチームは再び開発に取り組むことを決意し、実験環境を見直すところからスタート。
水量・圧力・吸気条件を一から設定し直し、業務用洗濯機専用のUFB発生システムの開発が始まりました。

「最初の失敗を踏まえて、今回は業務用でしかできない構造を作ることに集中しました。そこから新しい方向性が見えてきたんです。」(天久氏)


こうして一度は止まりかけたプロジェクトは、“人間洗濯機”という共通の縁をきっかけに再び動き出しました。
ここから、両社の本格的な技術開発と試行錯誤の物語が始まります。

技術的課題と試行錯誤 ― “流量を落とさず吸気を安定させる”

再始動したアクアとサイエンス社の共同開発が最初に直面したのは、“流量を落とさずに空気を吸わせる”という技術的な壁でした。
家庭用シャワーのように少量の水で泡を発生させるのとは違い、業務用洗濯機は一度に大量の水を流すため、同じ仕組みでは空気を取り込むことができません。

「業務用は家庭用と違い、同じ時間で流れる水の量が何倍にもなります。水圧と流量の関係で、初期の試作では水中の空気量が安定せず 、泡ができない。まずそこをどう克服するかが課題でした。」(天久氏)

泡を安定して発生させるには配管内に空気を入れる必要がありますが、流量を落とさず空気を入れようとするとどうしても装置が複雑になったり、大きくなってしまう。この課題を解決するために何度も試作を繰り返しました。

「配管の角度を少し変えるだけで水の流れが大きく変わるんです。そのため、洗濯機内に収めるため、ユニットの小型化を試行錯誤しました。 」(藤原氏)

サイエンス社は、泡の発生原理を改良し、旋回流によって空気を巻き込む構造を検討。
アクアは洗濯機の内部構造を見直し、装置が最も効率的に空気を取り込める流路設計を模索しました。
試作を繰り返す中で、流量と吸気の両立を図る“エア自給機構”の発想が生まれます。

「外部から無理に空気を送るのではなく、水の流れそのものを使って吸い込む構造にしました。機械的な部品を増やさずに済むため、故障もしにくい設計です。」(天久氏)

しかし、この仕組みを実現するには、わずかな水圧や気泡の変化も見逃せません。
開発チームは細かい調整を繰り返し、ようやく安定した気泡発生に成功します。

「最初の試作機は大きすぎて“バズーカ砲みたい”と笑われたこともありました(笑)。でも、そこから小型化して、実際に洗濯機に組み込めたときの達成感は大きかったですね。」(藤原氏)


こうして両社は、流量を犠牲にせず、安定して泡を作り出す仕組みを確立。
業務用という高負荷環境でも機能する“持続的なUFB発生技術”の基盤が完成したのです。

両社の連携体制と開発プロセス ― “異分野協業”の真髄

アクアとサイエンス社の共同開発が形になるまでには、両社それぞれの専門分野を超えた深い連携がありました。
アクアは洗濯機の構造設計と流量制御を担当し、サイエンス社は泡の生成理論と装置設計を担う――
異なる技術領域を持つ二社が協力することで、課題を一つずつ解決していったのです。

「最初のうちは、同じ言葉を使っていても意味が違うことが多かったんです。たとえば“流量を安定させる”という表現でも、アクアさんは水量の数値を指していて、私たちは泡の分布のことを言っている。そうした違いを理解し合うところから始まりました。」(天久氏)

ミーティングでは、専門用語の定義をすり合わせながら、互いの設計思想を共有することに時間をかけました。
最初は“水の動き”と“泡の性質”という異なる視点から議論がかみ合わないこともありましたが、お互いが歩み寄る中で、共通の言語が少しずつ生まれていきました。

「サイエンスさんは“泡の発生原理の見え方”から説明してくれる 。私たちは“構造としてどう成り立つか”を考える。その視点の違いが、むしろ良い相乗効果を生み出していきました。」(藤原氏)


開発が本格化すると、両社は頻繁にデータを共有しながら現場での検証を進めました。
アクアのテストルームでは、洗濯水の流速や圧力の計測を行い、サイエンス社がそのデータをもとに発生装置の構造を微調整するという流れを何度も繰り返しました。

「設計図面を何度も書き換えながら、実際の水の動きを見て調整しました。1回1回の試験が次の改良につながるように、常に意見をぶつけ合っていました。」(藤原氏)

ときには厳しい意見交換もありましたが、「より良いものを作る」という目標は常に共通しており、議論を重ねるほど、チームとしての結束が強まっていきました。

「気づけば、“アクアさん”や“サイエンスさん”という区別がなくなっていました。まるで同じ会社の開発チームのような感覚で仕事をしていましたね。」(天久氏)


異なる専門性を持つ二社が、互いの強みを認め合いながら築いた信頼。
その協業こそが、業務用ウルトラファインバブルという新しい技術を形にした最大の原動力でした。

完成に至るまでの転機と成果 ― 技術確立とチームの覚醒

長い試行錯誤を経て、アクアとサイエンス社の共同開発はついに形となりました。
それまでの開発で最大の課題だった“泡の安定生成 ”と“耐久性”を乗り越えたことで、業務用UFB技術はようやく“製品として信頼できる段階”へ到達したのです。

「最初は“泡が出た”というだけで喜んでいたのですが、ある時からどの水圧条件でも一定数のUFBが発生できていると確認できるようになり、製品として形になる目途が立ちました。」 (藤原氏)

実験室レベルの成功を“再現性のある技術”にするため、チームは何度も繰り返し試験を行いました。
吸気量、圧力、気泡の密度など、わずかな条件の違いで結果が変わるため、細かなデータを積み上げて、どの環境でも同じ性能を保てる構造を探り続けました。

「最終的には、数値が安定してからも何度も試験を重ねました。機械を動かすたびに流量 や温度が変わるので、現場での再現性を確かめる必要があったんです。」(天久氏)

そして迎えた耐久試験では、長時間の稼働においても泡の発生量や水圧の変化が見られず、安定した動作を確認できました。

「業務用は毎日フル稼働する環境です。長期試験で安定して動いたことで、“ようやく製品として出せる”という自信を持てました。」(藤原氏)

同時に、この開発を通じて両社のチームにも大きな変化がありました。

開発初期は両社で考え方の違いも多かったものの、実験と議論を重ねる中で互いの強みを理解し合い、“ひとつの開発チーム”として動けるようになっていったのです。

こうして、両社が信頼と技術を積み重ねて完成させた業務用UFB発生ユニットは、“見えない泡”を安定的に生み出す確かな仕組みとして結実しました。それは、両社の信頼と挑戦の積み重ねによって築かれた成果でした。

【後編】アクア×サイエンス社が語る“ウルトラファインバブル” の可能性 はこちら>>

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*「ファインバブル」、「ウルトラファインバブル」、「FINE BUBBLE」は、一般社団法人 ファインバブル産業会の登録商標です。

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